おかげさまで、
新しい生産者との出会いにも恵まれると共に、ワイン造りの大きな課題を感じた旅でした。

より自然なワイン造りを目指すがために、その味わいが市場で受け入れられるのが難しく、存続の危機に直面している生産者が出てきている現実に、そのバランスの難しさを感じました。
彼らのそれまでの歴史、醸造学校での勉強、その後の各地でのワイン造り、起業への準備... 毎日の畑仕事...など、彼らの真面目で真摯なその背景を思うと、なんともやりきれないものです。
彼らにとって、本来あるべきワインの姿を追求し、自身に嘘の無い日々の努力... きっと本来であるはずのそれらのことが、現実とのギャップで頓挫してしまう...
ワインつくりをやめ、すでにトラック運転手をしている生産者。400年家族で守ってきた大変樹齢の古い畑を少しずつ売り出している生産者...
醸造学校、他の生産者でのスタージュを経験してきた生産者の息子が、夜遅くまで工場で力仕事をしている姿... 
実際にそんな現実を目の当たりにして、大変残念でショックでした。
職人的感覚から、「自分自身のスタイルは変えられない、通用しないなら辞めるしかない...」。 でも辞めてしまっては... 
現代社会との、バランスの難しさ、大切さを感じました。
こんな状況の中、私自身に出来ることは... 無力さとともに、それでも何が出来るのだろうと考える旅でした。
私自身にとりましてかけがえの無い幾つかのワイン... それらはしばしば究極に自然を尊重され造られたワインでした。しかし同時にそれらのワインは飲むたびに味わいの異なるもの。
しかしながら、そんなワインがなくなってしまっては... 

そんな中いい話を頂きました。
ボジョレーのマルセル・ラピエール氏。
今でこそその名は知られていますが、80年代初めにジュール・ショべ氏と出会い、その後半に自分のイメージするワインが出来、やや天狗になっていた頃、やはりいろいろなクレームがありました。
ビンの中での再発酵、瓶ごとの味のバラつき、澱が多い... そしてそのビンつめを3タイプに分けました。フィルター、SO2、その両方。本望ではなかったですが...思い切って... 
彼はそれら生産者たちの葛藤を大変理解しています。その頃の自分と重ねて...

マルセル・リショー氏。
コートドゥローヌのケランヌで大変安定したワインを造っています。
現在50haもの畑を所有。70年代中頃、20歳の頃、叔母さんの畑を借りてワイン造りを始めました。
そして現在なんと90%をフランスで、しかもその90%を自分のドメーヌで販売しているといいます。驚きました。一般的には輸出の比率がより多いもの。しかも自分の家での販売とは...!
いかに一般の顧客、しかもマルセル自身のファンが多いことに!
そのとき思い出しました。2年半のフランス滞在中、地方の小さなあらゆる試飲会場にマルセルの姿があり、そのスタンドは常にお客さんでいっぱいだったことを...
30年、一本一本直接消費者に説明しながらワインを売ってきた、かけがえの無い賜物です。
嘘の無い日々の積み重ね。畑でも販売でも... 50haもの自社畑、しかも醸造コンサルタントの存在... でもそれは現在の一時点でのこと。誤解していました。

大変貴重な2つのお話しを頂き、今後のワイン造りの課題、我々プロが少しでも理解すべき大切なことを感じました。日々より良い方向へ向かうことを望んで。



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