1.ロワール地方
ロワール川の河口の街ナントからブロアまでの東西約240Km、一般的には偉大な産地とは言われない、このロワール川沿いの畑で、土と向き合い、真のワイン造りをしている多くの生産者に出会いました。私にはこの地が、最も親しみの持てる、わくわくする地方でした。

−ミュスカデ−
ロワール川の河口の街ナント。その回りに広がる広い産地ミュスカデ。残念ながらその広さ、収穫量の多さから、テロワール(その土地の気候・風土)が限定できず、あまり語られませんが、しっかりとそれを表現している真面目な生産者に出会いました。
お奨めの生産者:ドメーヌ ランドロン(ジョセフ・ランドロン)、ドメーヌ ドレク(ギイ・ボサー)、ドメーヌ ドラセネシャリエール(マーク・プスノ)



シャンポール城
−V.D.Q.S. フィエフヴァンディーン−
ナントの南、湿地帯で一般にはあまりワイン造りに適しているとは言われない所で、日々挑戦している生産者です。 様々なぶどう品種を試し、特にシュナンブランの“キュベ ソレイユ デュ ラ シーヌ”は全く感動させられるワインです。
お奨めの生産者: ドメーヌ サンニコラ(ティエリー・ミション)

−コトーデュレイヨン、アンジュ−
アンジェの町の南から東に広がるワイン産地。 カールドショーム、ボンヌゾーなど甘口貴腐ワインでも有名な地域ですが、ガメイ、カベルネフランを使った赤、グロロを使ったロゼ、シュナンブランの辛口白など好感の持てるよいものがたくさんあります。生産者同士仲が良く、貴腐ワインのあるべき姿についてINAO(イナオ)に働きかけたり、シュナンブランでのSO2の量、台木の研究、無農薬農法など彼ら自身で話し合いながら、とても前向きに取り組んでいます。
お奨めの生産者:パトリック・ブードワン、ルネ・モス、ジョー・ピトン、フランシス・ポワレル、マーク・アンジェリ


コトーデュレイヨンの貴腐葡萄

“貴腐ワインは補糖ワイン?!”
INAO(イナオ)は貴腐ワインに補糖を認めています。 消費者は貴腐ワインを買うとき、「遅くまで収穫を待ったぶどうに貴腐菌が付き、その菌がぶどうの水分を抜き、あの甘美な甘さを作り上げる。貴腐菌は毎年現れるか分からない、まさに自然の賜物、稀少で貴い飲み物である。」と考え、高価な貴腐ワインを買います。 しかし誠に残念ながら大部分の貴腐ワインは、人工の砂糖で補糖されています。あの「飲んだ際のベタベタした甘味」です。
私もそんな事実は知らず、「貴腐ワイン、甘口のワインを飲むと疲れる(過SO2)、甘すぎてたくさん飲めない(過補糖)」という印象でした。しかし補糖されていない天然のぶどうの糖分だけで造られた甘口ワインは、決して重くなく、なんと甘いにもかかわらずサラダから、メイン料理、デザートまで、料理の邪魔をすることなく楽しむ事ができます。 認められる補糖は、アルコール換算で2パーセントまでと決められていますが、心無い生産者は多く、「その甘味のほとんどは砂糖」なんていうこともあるようです。
いまSAPROS(サプロス)というマコンのジャン・テブネ氏が中心になって、本来の姿である“補糖の無い貴腐ワイン”を造ろうという団体が、INAOに働きかけ、その見直しを一緒に考えています。 INAOが生産者で構成されている団体である以上、なかなかすぐには改革できません。 しかし志高い生産者により、少しずつよい方向へ変わって行く事を期待いたしております。
−ソーミュール、シノン、ブルグイユ−
青い若い風味が出たり、果実とタンニンとのバランスが難しいカベルネフラン。 そんな難しい品種を、すばらしいワインにしている生産者に出会いました
お奨めの生産者:ドメーヌ クロロジェー(ナディ・フコー)、アントワンヌ・フコー、カトリーヌ・ピエールブルトン

−ヴ−ヴレ−、モンルイ−
“テュフォー”といわれる石灰岩。ロワール川に点在する古城や、トゥールの町並みはこの石で作られました。その石を採掘した後の洞窟は、格好のカーブ、ワインセラーになっています。そのミネラルをよく反映できるのがこの地域。固いしっかりとしたワインができあがります。特にモンルイの生産者、フランソワ・シダンは「首まで土に埋まっている」と友人が評す様に、毎日土と向き合い、その土地を反映した素晴らしいワインを造っています。
お奨めの生産者:フランソワ・ジダン、ヴァンサン・カレム


テュフォーに造られた岩の家
“トクグロディット”
−トゥーレーヌ、ソローニュ−
平地が多く、特にテロワールが語られる偉大な地ではありませんが、偉大な生産者がいます。彼らもやはり毎日土と向き合い、素晴らしいぶどうを収穫し、その結果その地においても、とても心地の良い、まったくテロワール(土壌)の感じられる、そこの風景が想像できるようなワインを造っています。
お奨めの生産者 :ドメーヌ・カイヨ・デュ・パラディ(クロード・クルトワ)
            ドメーヌ・クロ・テュ・ブッフ(ジャンマリー&ティエリー・ビュズラ)


−サンセール−
キンメリジャン、素晴らしい石灰土壌。しかし残念ながら、真面目に土と向き合い、この偉大な地で素晴らしいワインを造ろう、という活気はあまり感じられませんでした。 またしても“偉大な地、偉大な生産者少なし”でした。
しかしシャビニョールのエドモンド・バタン、フランソワ・コタはクラシックな素晴らしいサンセールを、ディディエ・ダグノーはそのミネラルたっぷりな素晴らしいテロワールを表現しながら、新樽を用いてモダンで素晴らしいピュイイフメを造っています。  お奨めの生産者:エドモンド・バダン、フランソワ・コタ、ディディエー・ダクノー
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2.ボジョレー地方
私がフランスでの生産者訪問をスタートした地方。
しかし、日を追うごとにがっかりしました。 ほぼ全ての生産者が全く同じような人工的なワインを造っている事に。
多量な除草剤により畑には全く草が無く、セメントのように固い土、生命の活動を感じさせない風景・・・・・・・・・・
法律で収穫は手摘み。 “手摘みが法律で決められているのはこことあのシャンパーニュだけだ”と彼らは胸を張りますが、ガメイというぶどうの特徴を生かすための、醸造上の手法(マセラシオンカルボニック)による義務であるもの。

コート・ド・ブルイ
ボジョレーではぶどうを潰さず、丸ごと醗酵を始めます。これはボジョレーのぶどう品種“ガメイ”の大きな特徴である、イチゴやさくらんぼのようなチャーミングな果実味を生かすために、ぶどうを潰さず果粒中にてアルコール醗酵を始めさせ、香りを逃がさないように仕込む方法で、これによりタンニン(渋み)の少ないフルーティーな赤ワインができあがります。機械で収穫しては、その際既にぶどうが破砕してしまい、この方法ができないのです。
収穫されたぶどうは、大きなトラックの荷台いっぱいにされ、その間、既に下の方のぶどうは、重みで潰され酸化・腐敗が始まってしまう。あまり良い光景ではありません。醸造所へ運ばれたぶどうは、マセラシオンカルボニックによりワイン造りが始められます。 まず生産者たちは、アルコール醗酵をリスクなくスタートさせるために、工業酵母を入れ、ワインを暖める。これにより無事に醗酵が始まり、残糖が残ることなく終了する。 その後ぶどうはプレスされ、果実味をさらに増すため、その果汁を急冷却し残りのアルコール醗酵が進められる。そして4月に瓶詰め。

ほとんどの生産者が、全く同じようにして造るボジョレーのワインは、個性の乏しい果実味だけの赤ワインとなり、ぶどうの特徴よりも、酵母、テクニックの方がワインによく現れた人工的なワインになってしまっています。 よくボジョレーの味として形容される、「バナナのような甘い風味」は、ぶどうや風土の特徴というよりも、工業酵母により造られた、人工的な特徴である場合が多いです。 徐々にこの酵母を使う生産者は減ってきましたが、ヌーボー(新酒)ではまだこういった味のものがたくさんあります。

一般的にボジョレーの生産者の収入の3分の2はヌーボー(新酒)が占めます。 収穫後数ヶ月でお金を手にできる。しかもあまり品質を問われない酒で。 今ボジョレーは、この様なワイン造りが長く続いたおかげで生産過剰になり、大量のワインが破棄される事態を招いています。

たくさんのボジョレーの生産者を廻りながら、「悪くはないが特に...」という印象が続く中、この地にも素晴らしい“ワイン”を造っている生産者に出会いました。 彼らを中心に、今後ボジョレーが、人工的なワインでなく、よりよい方向へ発展していくことを期待致しております。今認められている10のクリュには確かなテロワール(その土地の風土)の違いを感じます。
 
エコシステム(自然の自活能力)を機能させた畑で、ポテンシャルの高いぶどうを育て、まさにその10のクリュの土地の個性を表現するワイン。早くそんな本来のボジョレーを試してみたい、またボジョレーのテロワールには、その可能性を強く感じます。

マルセル・ラピエールと仲間たち
お奨めの生産者
マルセル・ラピエール
イヴォン・トメラ
フィリップ・ジャンボン
ギイ・ブルトン
ジャン・ポール・テブネ
クリスチャン・デュクリュ
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3.マコネー地方

ひたすらガイドブックを参照に、特に当てもなくフランスのワイン生産者を廻り始め、既にたくさんのワインが日本に紹介されている中、何か違ったいいワイン、自分の納得の行くワインはないかと訪問を続けているとき、パリで行なわれたワインの試飲会で、今まで経験した事のない“ハッ”としたワインに出会いました!

1998年より認められた新しいAOCのヴィレクレッセという地域のワインです。 他にもこの地方は、偉大なテロワール(気候・風土)を持つ「ピュイイフイッセ」でとても素晴らしいワインを造る生産者。北向きの斜面をよりメリットに、とてもエレガントなワインを造る熱心な若者。収穫をじっくり待ち、この地で素晴らしい貴腐ワインを造っている全く偉大な生産者...
ブルゴーニュの田舎ここマコンは、なかなか居心地のよい地域でした。

“パリでの試飲会”
2000年12月、パリで毎年開かれる、フランス中の個人生産者の集まる試飲会をのぞきました。会場に入ってびっくり。なんと1000もの生産者が大きな会場に所狭しと!試飲会には慣れていたつもりがこんな規模は初めて。 気を取りなおし試飲するワインを“マコネー地区”のみに絞り、3日間朝から晩までマコネーのワインばかり試飲しました。

一般的にマコネーの生産者は、同じブルゴーニュ地方の偉大な産地であるコートドールのワインに挑戦する気概もなく、ぶどうの収穫量が多すぎるために味わいが薄くシャビシャビで、また人工酵母の常用とステンレスタンクでの過度な温度管理により、口当たりはフルーティーだが表面的。また、ぶどうの糖分を補うために、さとうきびの砂糖がたくさん添加されることで、それほど高くないアルコールにも関わらず、アルコールをより強く感じてしまう様なワインが多い。 おかげでこの3日間の試飲はとても疲れ、どのワインも同じ味がしてうんざりしていた。 しかしなんとか何か収穫を得たいと続けていたところ、今まで味わった事のない、不思議な、神秘的なワインに出会いました。

通常マコネーのワインは、収穫の翌年4月頃瓶詰めされ、そのフレッシュさを楽しみ、翌年そのワインはまったく熟成せずその良さを失ってしまいます。しかしこのワインは前年の酒のほうがよりフレッシュで生き生きとしており、今年の新酒は静かで黙っている。しかも何かエネルギーを与えてくれ、今までの疲れを忘れさせ、とてもわくわくした気分にさせてくれる。まったく他の生産者のものと違いました。 まだあまり出来ないフランス語で「なぜ?どうして?..」。少し興奮してたくさんの疑問を生産者にぶつけると、彼はニヤリとし「家に来い」と。

数日後私は彼らの家を訪ねると、彼らは辞書を使い、私が理解するまで一生懸命親身になって説明してくれました。なぜ他のワインと違うのかを。同時にマコネーのよい生産者も数件教えてくれました。 これが私のヴェルジェ家との出会いであり、これがなかったら私のフランス滞在はまた違ったものになっていたかもしれません。

お奨めの生産者
ジャン・ジャック・デノジャン(フィッセ)
フォビオ・モントラジ(フィッセ)
フィリップ・ヴァレット(シャントレ)
ジル・カトリーヌ・ヴェルジェ(ヴィレ)
ジャン・テブネ(クレッセ)
ギヨモ・ミッシェル(クレッセ)

ヴェリジェ家
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4.コート・ドール

1年半と最も長く滞在したにもかかわらず、自分にとって納得のいくワインはあまり見つけられませんでした。 この地方のピノノワールが好きで渡仏。何とか納得のいくピノをいくつか探したかったのですが・・・

誰もが認める偉大なテロワール(土地)。よってそのコストは高く、ワイン造りより経営重視の生産者。テロワールをコマーシャルとして利用する・・・全く残念な気によくさせられました。 畑では従業員やヘリコプターが働き、主人はもっぱら車磨き。来客時以外家でワインを飲まないという生産者も。しかしワインを語るときは“テロワール”。全く説得力がありません。
こんな雰囲気のコート・ドール。どうしてもフランスの他のワイン産地から見て、先進性に欠けた保守的なエリアのようです。 少しずつ畑での仕事について語られていますが、実際の生産者レベルではとても遅れています。 しかしもちろんよい生産者にも出会えました。 やはり何といってもブルゴーニュのそのテロワール(土地)は偉大です。是非そんな生産者を中心に、より“ワイン”を造っていただきたく願っております。その際には今よりももっと驚くべく、素晴らしいワインが必ずできる地域です。

お奨めの生産者: フレデリック・コサー(サンロマン)、 ドミニク・ドラン(サントーバン)、 フィリップ・パカレ(ボーヌ) 

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5.アルザス
気候が寒くワイン造りは大変ですが、その土壌はとても多種多様で、無限の可能性に秘めた偉大な産地です。 畑に力を注ぎ、完熟した腐敗のないぶどうが採れた時、そのワインはブルゴーニュ、シャンパーニュなどと同様な、偉大なテロワールを感じるワインとなります。

アルザス
マコネー地方でもそうでしたが、ここのワインも皆同じ味がします。
収穫量が多いためシャビシャビに、補糖が多すぎるためアルコール感の多い、工業酵母により妙に香り高く、フレッシュ感を出すため二次醗酵(リンゴ酸が乳酸になる醗酵。マロラクティック醗酵)をさせず、そのためSO2が多く、澱引き、濾過も多い。
皆が同じ造りをし、生産者自身による目隠し試飲で合格するため、目立つようなワインは造らないようにする。
そんな中で、畑で汗を流し、できるだけ人工的な処置を避け、自然な本来のアルザスワインを造る。そんなワインは、ずらりと並べられた同じようなワインの中に有ってはとても目立ってしまい、AOCから外される・・・
しかし志の高い生産者はもちろんいます。
ぶどうを完熟させ、それぞれの“品種”の長所を最大限に表現するマルセル・ダイス。ぶどう品種と“テロワール”の可能性を追求するアンドレ・オステルタッグ。珍しいシスト質(スレート)の土壌の個性をしっかりと表現するマーク・クレイデンワイス。常に挑戦し飲み手を飽きさせないクリスチャン・ビネー。物静かで繊細な、常に土と向き合うピエール・フリック。

そして何と言っても常にINAO(AOC)に挑戦するジェラール・シュレー。
そして今、シャンパーニュからBar(バール)の静かな森の中に越してきた、ホテル・レストランの主クリスチャンが、アルザスの若手生産者を集め、しばしばワインについて語り合っています。こうした流れにより、アルザスの偉大なるテロワールの可能性が、より具体的なものになっていく事を心より期待しております。


アルザス “バールの街”
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6.ジュラ
コンテチーズ、白い牛、山間部に広々と広がる牧草地・・・
プールサール、トゥルソー、サヴァニャンという固有の品種があり、この地に住む産膜酵母という微生物により、独特のあの香ばしい風味を持つジュラのワイン。 南北60Kmほどのこの地方には、何か固有の、独特な、山間部の頑固さと同時に親しみの有る、何か懐かしさを感じる地方でした。
ここでの生産者は何といっても巨匠ピエール・オヴェルノワ。 彼の長年続けてきた努力は、多くの生産者の指標となり、数え切れない感動を与えてきました。彼の造るワインは、全く他を寄せ付けない圧倒されるほど魅力的なもので、常に感動させられます。

彼のドメーヌは、既に15年ほど共に働いてきた愛弟子エマニュエル・ウイヨンが受け継いでいますが、残念なのは、こんな偉大な生産者がいながら、誰も彼の意思を受け継ぐ者がこの地には他にいない事です。 産膜酵母、泥灰土の土壌、山間部の独特な気候、固有のぶどう品種など、この地にはその素晴らしい、他には真似のできないとても特徴のある、色々な可能性の有る土地であり ながら、多くの生産者は“ブルゴーニュ”のワインを造ろうとしています。

市場、消費者の嗜好ということなのでしょうが、それなら世界のワインがブルゴーニュとボルドーであればいい。
是非うわべのワインでなく、まさにその土地を感じさせる感動を与えるワイン。そんな可能性はジュラにはタップリあり、是非もっと追求し、アピールしていっていただきたいと願っております。
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7.サヴォア地方

スイスとの国境“エクスレバン”の湖
澄んだ空気、アルプスの山々、湖・・・  是非ゆっくりこの地は訪れたい所。
ひとくちにサヴォワ地方といってもそのエリアはとても広い。東西に100Km、南北に80Km。レマン湖の南からスイスのジュネーブ、そしてマコンの隣り町、ブレス鳥で有名なブールアンブレスの町まで。また、とてもきれいな山間の町アヌシー、シャンベリーからオリンピックの開催されたアルベールビルまで。 だいたいは山の斜面でワインが造られています。
一般的には味わいの薄い、甘味のある軽いワインが多いですが、やはりここにも本物を目指す生産者はいました。 アルベールビルから車で30分。アルプスの山の中で、ひたすら土と向き合うミッシェル・グリサー。彼の造る辛口白「アルテッス」は、サヴォワのワインの可能性、またテロワールとはどこにでも存在する事を教えてくれます。それを導くか否かは「人」だということを。
またサヴォワ北部、VDQSのBugey(ブージー)のエリアにも、ガメイ、プールサ−ルの果実味を活かしたムスーを造るラファエル・バルトゥッチ。ガメイ、ピノノワール、モンドゥーズなどのぶどうでしっかりとそこのテロワールを表現するフランソワ・グリニョンなど、よい生産者に出会えました。
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8.ランクドック・ルーション地方

バニュルスの街と海
スペインとの国境、地中海のまったくきれいな海につながる断崖の斜面に開墾さたバニュルス(Banuls)から、モンペリエの北ニーム(Nime)まで、全く太陽に恵まれた、ぶどうにも人にも天国のような地域です。フランスが全国的に雨模様でも、この地中海に面した帯状の地域一帯は晴れ、ということは常で、バカンスシーズンはもちろん一年中太陽を求め人が訪れます。
ここにいると「ワイン造りの基本は太陽」という事がよく分かり、自然発生的に、イラン、エジプトから北アフリカ一帯で、古代ワイン造りが盛んであった歴史を身をもって感じます。
海岸沿いですが山も深く、海沿いの平らな地域では、アルコール感の豊かな濃縮したワインが、山間の地域では、日中の太陽が「アルコール」を、夜の冷気が「酸」を造り、とても複雑な興味深いワインが造られます。
またバニュルス、モーリー、フロンティニャンなどのヴァンドナチュレルに出会うと、ぶどうの楽園ならではのワイン(醸造酒)からの発想のV.D.N.(ヴァンドナチュレル)と、 コニャック、カルバドス、マールなどの、蒸留酒からの発想のV.D.L.(ヴァンドリカー、Ex. ピノーデシャラント、ポモー、ラタフィアなど)との違いを感じます。
この地域も是非、古城や海を見ながらゆっくり訪れる事をお奨めします。また違ったフランスを発見される事でしょう。

山上の古城“ケルビュス”

近年オーストラリアやアメリカから若い醸造家がここへ来て、工場のような大きな設備で、彼ら自身がアドバイスをしながら、新しいワイン造りをしているようです。モンペリエでは、酵母の遺伝子組換えにより、二次醗酵もアルコール醗酵をした同じ一つの酵母で行なうような、酵母の開発がされているようです。 ぶどうの楽園である事の裏返しか、容易にぶどうが完熟するため、よりリスクなく、効率的に「量産」しようと、テクニックの追求を行なっているようです。
楽園であるからこそ、その本質的なテロワールの表現がより容易にされるはずなのに... 誠に残念なことです。

近年、南仏のワインの品質が向上したと言われます。しかし私はそうは思いません。 確かに技術的、工業的には進歩し、ワインの品質のレベルが化学的に上がったことは、ここだけでなく世界全体に言えることです。 私にはここのワインは皆同じ味がして、今ひとつの個性が感じられません。
果実味を表現するため除梗をし、ステンレスタンクで温度管理のもと、必要な場合は工業酵母を入れ、ぬかりなく醗酵が進められる。その後ぶどうのポテンシャルにより、ステンレスや新樽で熟成される。出来上がったワインは溢れんばかりの濃縮した果実味。また新樽で熟成させたものは力強く、カリフォルニアのワインを思い出させるようなしっかりとしたものも。
世界中のジャーナリスト、評論家の行なう、驚く多さのサンプルを一時に評価する、吐き出して飲みこまない、目隠しの試飲の場合、これらのワインはそのインパクトの強さから“素晴らしい!”と高く評価されるでしょう。 しかしワインは飲みのもです。過酷な条件で、吐き出して評論されるためのものでは有りません。こういったワインは飲むほどに疲れます。なかなか空になりません。

私にはさらに、「このワインは力強いばかりでなく、繊細で、滑らかで、アルコール感も少なく、今までのそのスタイルとは違う。」と言われても、何か人工的な、人間が造り上げたつまらなさを感じます。(Vin d'oenologe: 醸造家による人工的なワイン。過度な温度管理、工業酵母、ステンレスタンク、新樽など・・・) 確かにぶどうの完熟のおかげでワインのレベルは高いのですが、何か物足りない、つまらないワインがとても多いように感じます。

太古の昔よりぶどうにとっての楽園。より自然にぶどうが完熟し(病気も少なく)、テロワールの表現は生産者の畑での努力次第、ということであれば(容易でない地味な作業ですが)、 素晴らしい、飲む人に感動を与えるべくワインは、よりもっと多く造らる可能性が高い地域であると思います。
この楽園が“Vin d'oenologe(ヴァン ド エノログ) でない Vin de naturel(ヴァン ド ナチュレル)”醸造家のワインでない自然なワイン。
そんな方向へ向かっていく事を心から期待しております。

“ドメーヌ マジエール”
この南の地で出会った、素晴らしいエピソードを紹介します。 私がこのワインに出会っていなかったら、ワインへの私の思い入れはまた違ったものになっていたでしょう。

これを飲んで驚きました。今まで感じたことのない感動。アルコールはしっかり感じるのに、水のように飲める。飲むほどにワインが語ってくる、わくわくさせる、“ありがとう”という気にさせる・・・ 
翌朝すぐ電話。その感動を伝え、彼のカーブ(醸造所)へ。想像した通りの汚いカーブ。思った通りの職人の雰囲気をムンムンさせる生産者ジャン・ミッシェル。
着くやいなや挨拶もそこそこに、「まあ飲めや」。 前日私はわざとたくさんワインを飲んで身体を疲れさせ、「もしこのワインが本物なら私にエネルギーを与えてくれるだろう」と。

カーブの前の景色
水飲み用の分の厚いコップで一杯。 身体中を英気が走り、思わずニヤリ。カーブの前のきれいな山の景色を見ながら「あった、こういうワインが!!」。 溢れる感動が疲れなど吹き飛ばし、静かにまたニヤリ。 本物の生産者はこのリアクションに敏感だ。 無言のうちに白ワインに、「まあ飲めや」。

もう完全に、私が生産者を訪問した際にする質問、畑の所有面積、品種、醸造方法・・などする気もなくなる。身体の力が抜け、山の景色を見ながら「フッー」と一息。全くリラックスさせてくれる。 その後数回彼の家に立ち寄るうち、「1ヶ月くらい収穫手伝うか?」とのこと。 こんな汚い家で、しかもこの個性の有り過ぎるジャン・ミッシェルと1ヶ月も?! との不安もありながら「是非やりたい!」。
2002年10月上旬、マコネー、ボジョレーで収穫に参加したあと彼の家へ。 まず家の掃除からと意気込んで行ったが、彼の娘ジュディットが学業を終えて滞在しており、彼女のお陰で家は見違える程きれいになっていた。

ここはスペインとの国境のピレネー山脈の近く。素晴らしい大自然、毎日晴天。今この時期、せっかく実ったぶどうを食べてしまう猪が一番の天敵。あちこちで猟銃の音が響いている。
10月12日。彼の最後の収穫。葉は完全に落ち、ぶどうは丸見え。とても収穫はやり易い。 ぶどうには全く腐りがない。はっきりゼロと言える。どこの生産者も弱冠の腐りは付き物で、その腐った部分を取り除く作業があるものだが、全くゼロ!しかも収穫としてはとても遅い10月中旬なのに!! 全く驚いた。よいワイン造りにはもっとも基本的で大切な事だが、ここまで完全な状態とは!
ジャン・ミッシェルは「太陽、気候のお陰。だから大昔からここにはぶどうが植わっている。」 またこのエリアは昔から多数のぶどう品種が混在する。彼も1つの区画にそのまま数種類の品種を残している。「この方がいい」と。

収穫されたぶどうは一般的にすぐカーブ(醸造所)に運ばれ、バクテリアの繁殖や酸化を最小限に押さえるため低温に保たれる。しかしジャン・ミッシェルは昼食を取る。ぶどうを太陽にさらしたまま。「逆だ、ぶどうには温度が必要だ」と。 ゆっくり食事した後、ぶどうをカーブへ。ここからがまた素晴らしい!

カーブ内と木製のプレス機
彼のカーブには電気がない。灯りも機械も。博物館で見かける手で回すぶどう破砕機、手動の小さな木製のプレス機、内側がガラスコーティングされた10hlの小さなプラスティクの醗酵槽、ワインを運ぶためのバケツ、古い樽・・灯りは入り口の戸をあけて、小さな灯りはろうそくとマッチで。
ぶどうはまず手動の破砕機に入れて全て潰され、それを一杯づつバケツで10hlの小さな醗酵槽に。 今日の収穫分で(0.4ha程)ちょうどこの醗酵槽が一杯になった。 カーブの中は10‐12度ほど。醗酵はゆっくり始まる。昼食中の太陽がこのとき役立つ。
15から20日間ほどのキュベゾン(醸し)の間、ルモンタージュ(果汁を下から抜き上からかけてワインを撹拌させる作業)を1〜2日に1回。下から果汁を抜き、バケツで一杯ずつ上からかける。後は何もしない。
15〜20日後、醗酵が一段落したら、醗酵槽の下からワインを抜きバケツで一杯ずつ樽に運ぶ。 醗酵槽に残ったぶどう粕は鍬でかきだし、木製の小さな手動式プレス機に。2〜3日程かけゆっくりプレス。そのワインもバケツで樽へ。
その後2年の樽熟成。普通、樽熟成の間、酸化を防ぐため、ワインの目減り分を加え、樽の中は常に余分な空気にさらされないようワインで満たしておくものだが、彼はそれをしない。2年もの長い間、常にワインを空気に触れさせておく。また澱引き※もしない。樽に入れられたワインは2年間人の手に触れられることなく静かに熟成する。
※澱引き: 樽での熟成中、樽の底にたまった澱を取り除く作業。“一般的に”この澱は熟成中のワインに好ましくない味を与えるとして3ヶ月に一度ほどのペースで行なわれる。この澱が旨み成分を醸し出すにもかかわらず・・

そして2年の熟成の後、瓶詰め。 瓶詰めの前日にワインを全て桶に入れ、たくさんの空気に触れさせなじませる。同時に樽の底に溜まった澱を取る目的も。 瓶詰めは樽から直接、一本々手で。重力を利用し静かに行なわれる。 最後に打栓。これも手で一本々コルクが打たれる。

はじめから終わりまで一切の化学製品はなく、酸化防止剤(SO2)すらない。ポンプを使うこともなくその液体はとても生き生きとしている。“ぶどうが醗酵した飲み物”を全く素直に実感できる。全く素晴らしい、私のテーマ“Qu'est-ce que le vin ?"(ワインってなに?)をより明確にしてくれたワインです。

こんな素晴らしいワインに出会えた事、また約一ヶ月間われわれ日本人を自宅に受け入れ、生活を共にしてくれたジャン・ミッシェルに心から感謝し、そんなワイン造りをする彼の健康と継続を心から応援しています。また同時に一人でも多くのワイン生産者が彼のワインを口にし、何らかのメッセージを感じてくれる事を心より期待しています。
Je vous remercie encore, Jean-Michel LABOUYGUES ! (ジャン・ミッシェル・ラブイグ氏に再度感謝申し上げます!)
ありがとう!!

お奨めの生産者
ドメーヌ・マジュール(ジャン・ミッシェル・ラブイグ)
ドメーヌ・フォンテディクト(ベルナール・ベラサン)
ドメーヌ・ランベール(ジャンマリー・ランベール)
ドメーヌ・デ・カソ・マイヨール(アラン・カステックス)
ブランケット・ベリウー(ジャン・クロード・ベリウー)

ラグイブ氏の瓶詰め
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9.コート・デュ・ローヌ

エルミタージュの丘
リヨンの南ヴィエンヌからアヴィニヨンまで、南北に長い(200Km)ローヌの産地。
特にヴィエンヌからターンエルミタージュにかけてのコートロティー、コンドリュー、エルミタージュ、サンジョセフなどは、フランス中で、いや世界中で、最も偉大なワインのできる地域だと感じます。
病気の少ない健全なぶどうを造るために最も必要な「太陽」と、より長くゆっくり完熟させる適度な「寒さ」のバランスがよく、畑は斜面で水はけもよく、ミネラル分もとても豊かです。これらの地域のワインには、それぞれのテロワール(土壌)がストレートに分かりやすく表現されています。
ヴァランスの辺りから果樹園が広がり、6月、7月の桃やアプリコットの収穫時は大忙しです。その南からモンテリマールの東、ラストーなどの南部コートデュローヌまでのAOCコートデュローヌの地域は、6月、7月、ラベンダーの美しい季節となります。
さらに南下し、シャトーヌフドパプ。かつてのローヌ川が隆起してできた、大きな丸い石ころのゴロゴロする驚きのテロワールから、アルコールの高いしっかりとした、しかし同時に、大樽で熟成させ、また白ぶどうも一緒に醸造する独特な造りから、まろやかで滑らかなワインが出来上がります。

ラベンダー
その東に広がるローヌヴィラージュの地域。ラストー、バケラス、ケランヌ、ジゴンダス、ボームドヴニーズなど、大味な、アルコールを特に感じるワインも目立ちますが、中には滑らかで繊細なもの、また標高の高い場所で、酸のしっかりとした、じっくりとぶどうが完熟したものなどはとても興味深いものです。またローヌ川の西側、アルデッシュもとても興味深い地域です。 素晴らしい生産者のおかげで、AOCにとらわれず、自由な発想でわくわくするようなワインが出来ています。
お奨めの生産者
ダーエリボ(ルネジャン・ダー、フランソワ・リボ)
マルセル・リショー
ドメーヌ・ラ・フェルム・サンマルタン(ギイ・ジュリアン)
ドメーヌ・マゼル(ジェラー・ウストリック)
ドメーヌ・ロマノー・デステゼ(エルベ・スオー)
ジル・アゾーニ
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10.ボルドー

たて、横きれいに刈り揃えられたぶどう畑。全く草のない、セメントのように固まった畑。シャトーや庭園は立派だが、人のエゴ、お金、ビジネスばかりが見えてくる残念な地域でした。 もともとイギリスの領土として発達したボルドー。オーナーは事業家、畑やワインはその従業員が。畑の所有面積は平均30ha。売り先はイギリス… 

ほかのワイン産地とは違った図式を持つボルドー。 各シャトーのオーナーはコスト削減、経営に注力し、その従業員は失敗のないよう毎年均一したワイン造りを心がけ、経営の安定を目指す。そこでは挑戦より守りが大切。

またイギリス人を中心とした「プリムール買い」のシステムも大きな問題です。 これはワインを“ワイン”としてではなく、“先物商品”として投資する最悪のシステム。 イギリスのワインブローカーが買い、値を吊り上げて売りさばく。
ボルドーの生産者は3月にあるこのプリムールの値踏みの試飲に間に合わせるため、その樽だけワインを温め醗酵を終わらせ、早くワインを出来上がらせる。よい価格付けがされるように。
ボルドーには珍しい、畑でタップリ働き、本来のワイン造りを心がける誠に好感の持てる生産者でさえ、「本意でないが生活のため」と。
より自由な、色々な試みの出来るワイン造りの環境が必要です。

カベルネソーヴィニヨンは日本でも人気のぶどう品種です。なぜか?私は個人的に好きな品種では有りません。メドックでのそれを除いては。
カベルネはタンニンや苦味が強く、ブレンドしてもその個性が強く、あまり容易な品種とは思えません。しかしメドックの偉大なシャトーワインの七光りで、「カベルネ」がもてはやされています。多くはビジネスの為に。
しかしメドックのカベルネはやはり素晴らしい。
その細かな砂利や、砂の水はけのよい土壌で、あの手ごわいタンニンがとても滑らかなさらりと流れるワインになる。しかも熟成したよい年の物は、微妙にその主張のある、全く食事の邪魔をしない、心地のよい至極なもので、その味は忘れられないものであります。まさに品種とその土壌(テロワール)との、真似の出来ないマリアージュであります。あとは造り手。

残念ながら、この最高のマリアージュを存分に生かし、尊敬できる生産者にはあまり出会えませんでした。 しかしやはりその地域にも、全く尊敬できる、素晴らしい感動をくれるワインを造っている生産者がいました。

リストラックのジャン・ピエール・ビスパリー。
誠にしなやかな流れるようなワイン。熟成したワインはまさに水のよう。高齢の彼は2001年の収穫を最後に引退してしまいました。こんな感動させるワインを造っていながら、なぜ彼に続く生産者が現れないのか。「皆苦労はしたくない。楽に収入があればいいのさ。」とジャンピエール。全く残念な事です。誠に勝手ですが、彼の在庫がいつまでもあることを祈ってしまいます。

ソーテルヌのアラン・デジャン。
大手スーパーの管理職から180度転身。今毎日土と向き合っています。 彼のキュベ、“クレーム・ド・テット”を飲むとビオディナミ?というものの効果が少し分かります。 その暦による、その日にちに収穫されたぶどうと、その翌日に収穫されたぶどうから出来たワインは、1日のみの違いにもかかわらず、ワインは全く別のものでした。 驚かされました。
シャトーイケム、リューセック、シュデュイロー、ラフォリペラギュイに隣接する素晴らしい条件の畑を持つ彼は、そのワインを全くリーズナブルな価格で提供してくれます。「私は有名でないから」と。価格、味、その背景。どれをとってもおすすめの、尊敬できる生産者です。

お奨めの生産者
ドメーヌ・オーブルガス(ジャン・ピエール・ビスパリー、リストラック)
ドメーヌ・ルーセットペラギュイ(アラン・デジャン、ソーテルヌ)
シャトー・メイレ(ミシェル・ファヴァー、サンテミリオン)
シャトー・リシャー(リチャード・ダウティー、ベルジュラック)
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11.シャンパーニュ地方

畑にはパリのごみ。
ビニール袋、ペットボトル、プラスチィック、ガラス・・・   シャンパーニュに着き、生産者ときれいなその景色に浸りながら、ふと畑に目をやるとそんなものがいっぱい。 「何これ?」「パリのごみだ。」
‘98年に禁止になったらしいがそれまで長い間パリのごみを畑に撒いていた。 ふた昔前のごみなら肥料になったかもしれないが・・・それも全く分別された様子もない状態で。最もコストのかからない肥料として・・・ 自分の畑にごみを撒く。全く信じられません。 そこには、大手ネゴシアンに依存する、シャンパーニュの現実を見ました。



残念な畑
そもそもシャンパーニュは人間が造りあげたもの。 水路が発達し、南から様々なワインがパリへ入ってくると、それらに比べ北に位置するシャンパーニュのワインは軽く、薄い味のため売れなくなりました。

コルトンを思わせるバレードラマルヌ
その後、再醗酵が瓶詰め後に起こり、ワインが発泡したアクシデントにより、その製法が確立され、そのグラスに注がれたきれいに立ち昇る泡、しかも美しいロゼ色は当時の宮廷の貴婦人たちを虜にし、その晩餐では絶大にもてはやされました。
宮廷での消費、また泡をなじませるため、ストックが長期にわたる事などから、資本を持った貴族がその生産を管理してきました。 通常のワインに比べシャンパーニュは、その歴史、性質から、イメージをより大切に受け継がれてきました。 本来のワインの姿とは違うシャンパーニュ。そこにはいくつかの問題点があります。

“ぶどうで売られる”
 シャンパーニュのほとんどのぶどう栽培者は、ワインを造ることなく、ぶどうを大手ネゴシアン売って生計を立てています。そこではその品質よりも量、重さが大切です。AOCの規定により、Grand Cru(グランクリュ)と認定された畑のぶどうは、毎年決められるその取引価格で。1er Cru(プルミエクリュ)のものはその99から90%で、それ以外の畑のものは80%の価格で取引されます。そこにはそれぞれのぶどうの品質は問われません。
この図式では、当然ぶどう生産者は、出来るだけ安い肥料で、少しでも多くのぶどうを成らせようとします。
収穫量は年によりかなり差があり、だいたい11,000Kgから20,000Kg/haです。シャンパーニュでは収穫量をワインの量(リットル)でなくぶどうの重量(Kg)で表わします。1Kgのぶどうから約0.7リットルの果汁が得られるとして、77hl〜140hl/haです。シャンパーニュでは4,000kgのぶどうから2,550リットルの果汁しか搾汁できませんから、70〜127hl/haとなります。いずれにしても他のワイン産地から見て2倍ほども多い量です。
「あまりワインがしっかりしてしまうと、シャンパンにしたとき味が重くなる」と彼らは言いますが、実際少ない収穫量で造られたシャンパーニュは、ぶどうの味のするミネラルたっぷりの、なんとも美味しい飲みものです。

先ほど述べましたが、収穫されたぶどうは現在、その年の価格の100%から80%で取引されるのですが、格付けされた1912年当時は、80%でなく30%まで地図分けされていました。
数年の間に30%の品質だった畑が80%に。しかも例外なく一律で・・・
その品質を考えればありえない事ですし、何とも不思議なことです。


シャンパーニュのセラー

“ワインで売られる”
他のどのワイン産地でも行なわれているように、収穫されたぶどうからワインを造り、それをネゴシアンに売ります。ワインにすることで、ぶどうの品質がより反映され、分かりやすく、シャンパーニュの品質向上のためにはよりよい取引方法だと思います。

“瓶詰め後の熟成中のワインを売る”
再び驚きました。
シャンパーニュでは、ある生産者がワインを造り、瓶詰めをした後の、出荷間近の熟成中のシャンパンを他のネゴシアンに売ることが出来ます。 ネゴシアンは、その買ったシャンパンにリキュールを加え、自社のラベルを貼り製品とします。売ったワイン生産者も「このリキュールを加えられた後は、造った私でもそれが私のものであったかどうかは分かりません。」
長く熟成しなければならない経済的負担からの措置です。「樽」や「タンク」でワインを買うネゴシアンの発想の延長なのでしょうが・・・

“リキュール ド ティラージュ”
この行為がまた、シャンパーニュの品質向上を妨げています。
出荷前にシャンパーニュは“門出のリキュール”というなぜかしゃれた名前で、ワインに甘味、味付けをします。通常のワインでは考えられない事です。
その甘味はさとうきびや南仏のぶどうから作った濃縮されたものなど。味付けとしてカラメルや、コニャック、木の香りなども調合されたり...まるでカクテルです。
このリキュールが各シャンパンメーカーの味になり、先ほど申し上げたような、ワインを造った本人も、そのリキュール添加後は自分のワインであったことがわからない、ということになります。それが何処のぶどうか、その収量は、どうやって造られたかなど、ワインの世界では最も大切とされる事はあまり語られません。返ってあまり個性の多くないほうが、その味を作りやすいのです。
まさにカクテルのように。

“30年でぶどうは植え替え”
ある大手シャンパンメーカーへ行った時、案内役の女性が「当社では30年経ったぶどうは全て抜き、新しいものと植え替えます」と自慢げにPRしていた。一般の方は「オー、さすが手が掛かっている」と。その反応に女性も満足げ。私はたまげた。せっかくその頃から凝縮したよいぶどうが採れ出すのに。
「なぜ抜くの?」その場の雰囲気を壊さぬよう近寄ってこっそり聞くと、「ぶどうが数多く成らなくなるからです。」と、また自慢げに。

このようなシャンパンハウスがシャンパーニュ全体の殆どを占めている現実。
シャンパーニュ全体は35,000ha。このメーカーは自社畑を800haも所有。しかしこれはその会社の生産量全体の20%。残り80%はネゴシアンとしてぶどうやワインを買う。合計4,000ha もの畑がそのブランドとなる、最大のシャンパンメーカーである。 全く残念ながら、彼らにはシャンパーニュ全体としての品質向上など頭にない。会社の現状を維持し、自社製品の表面的なブランドイメージをいかに高めていくか。既製服や高級車を売るかのように。

ひとつエピソードがあります。
私の注目する若手生産者、ラルマンディエール・ベルニエールのピエールは精力的にシャンパーニュの将来について活動するクレバーな青年。彼がシャンパーニュの若手生産者の代表をしているとき、その大手メーカーの社長はじめ数人の責任者と会食する機会がありました。 その席でピエールはシャンパーニュの現状、明日への前向きな姿勢を話し合いたかった。畑に撒く薬剤の量を少しずつ減らし、畑の土を良くしていきたいと。大手シャンパンメーカーの理解がもっとも大切だと。
しかしその経営陣は「おおー若者よ、君は素晴らしい理想主義者だ」と全く話にならなかったそうだ。
誠に少ないが、シャンパーニュにも、土と向き合う好感の持てるよい生産者は幾人かいる。 彼らは皆同じ事を言う。「彼らとは話は出来ない。彼らを理解することは無理だよ。」と。


冒頭でも述べたが、シャンパーニュの畑はあきれるほどにひどい。ガラスやプラスティックだらけの畑のぶどうが美味しいわけがない。しかも土は驚くほどに固い。雨が降れば水は土中に吸収されず、川のように流れを作る。雨上がりの排水溝には、大きな石が流されて山のようになっている。
またある畑では、木のチップがいっぱいに敷き詰めてある。「これ何?」と聞くと、「肥料になる」らしい。あきらかに木の切れ端で、消しゴム大の物が、そのまま肥料になるとは考えづらい。それならより細かく砕かないと。それにしてもその量が多すぎる。 再度ある生産者に聞くと、「それは言い訳。畑に入った際、足の裏に土がつくのがいやなんだ。彼らは畑のことはなにも考えてないよ」とのこと。

雨上がりの畑
シャンパーニュ滞在中、私自身で彼らの考えが聞きたく、訪問した大手メーカーにファックスや電話で何度か連絡した。畑のことが聞きたいと。しかし残念ながら連絡はもらえなかった。
是非直接彼らにこれらの事を尋ねてみたい。“ワイン”メーカーとして。畑を使う者として。

他のワイン産地では当然の質問がここでは通用しない。 自分の畑にごみを撒くくらいだから、畑に使用する薬剤の量など考えもない。ひたすらばら撒く。ヘリコプターで、ピンポイントの処置も出来るはずもなく。
「収穫は手摘み」と胸を張るが、機械収穫ではピノノワールの色が出てしまうため。醗酵は当然、工業酵母で。これだけ化学製品を撒かれては、バクテリアの活動があるわけない。
どうしても太陽が不足するため、アルコール換算2%の補糖は常識。瓶内二次醗酵される際24g/lの糖が加えられ、11.5%の製品で完成。ということは原料ぶどうの糖度は8.5%。

確かに寒く太陽も少ない。よって病気も多くぶどう栽培にはたくさんの困難がある。
「我々は南の地域とは違う」と言うが、ではその地域の生産者と同じような作業、努力をしているか? 寒く日照も少なければ、より畑での仕事が重要になるはずなのに。だが、 シャンパーニュでは土を起こす作業はしない。経験がなくやり方を知らない。 畑で働き、健全なぶどうを採り、まずはよいワインを造り、シャンパーニュに仕上げる。
“まずはよいワイン”。
「シャンパーニュはフレッシュさが大切。ワインの味が濃いと重くなってしまう。」と一様に口をそろえるが、実際、アンセルム・セロス、ピエール・ラルマンディエールらのシャンパーニュは決してそんな事は感じない。全く逆で素晴らしい味わいである。

シャンパーニュでは、ワインにボディを与えるため、以前の年のワインを混ぜることが許されている。他の年のワインを混ぜるなど、他の地域では考えられないことです。天候の不利のため、特別に認められている。
であるなら、しっかりぶどうを造り、よいワインをまず造り、その際、もしそれが重い味であるなら、酸のあるフレッシュなワインをブレンドすればいい。ボディ、酸の両方を備えた、味わい深いシャンパーニュが出来るはずである。

発泡性のワインを見た場合、それでもやはりシャンパーニュはそのミネラルさが断然違う。 表面的でなく奥深い。
その素晴らしいテロワールにあぐらをかくのではなく、畑で働き、健全なぶどうを採り、工業酵母に頼らず、補糖も最小限に努め、先ずよいワインを造る。その基本を理解し、シャンパーニュの明日を真面目に考える生産者が1人でも多くなってくれる事を、心から願っております。
またその時そのワインは、全く人を感動させる素晴らしい、まさに“シャンパーニュ”となるでしょう。

お奨めの生産者
ジャック・セロス(アンセルム・セロス)
ラル マンディエール・ベルニエール(ピエール・ラルマンディエール)
ヴァンサン・ラヴァル
アンドレ・ボーフォール

無農薬に挑戦するルクレールブリアンの畑

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